多言語DM作成が難航する理由とは?
台湾のメーカーが海外展示会に出展する際、DMは通常、中国語、英語、日本語の3セットを用意する必要があります。一見、翻訳を3回行うだけの作業に見えますが、現場で発生する本当のトラブルは翻訳ではなく「レイアウト」にあります
従来のやり方は、デザイナーが中国語版を作成し、文字を書き出して翻訳者に渡すかGoogle翻訳にかけ、返ってきた翻訳を再びレイアウトに貼り付けるというものです。問題は、言語ごとに文字量、フォントサイズの要件、行間の習慣がすべて異なる点です。貼り付けた瞬間にレイアウトは崩れ、欄ごとに手動で圧縮調整する作業が始まります。この3バージョンを作成するだけで、あっという間に2〜3日分の工数が消えてしまいます
これまで接してきた中堅・中小企業の多くは、社内のデザイナーが1〜2名しかいません。展示会開催の2週間前に3言語版のDMを仕上げるプレッシャーは相当なものです。ここ2年のAI翻訳ツールの進化により、このプロセスは確かに効率化可能になりました。しかし、使い所を誤れば、「翻訳待ち」の問題が「レイアウト崩壊」の問題にすり替わるだけです

英文版でレイアウトが崩れる原因、この数値を覚えておこう
英文は、対応する中国語に比べて文字数が通常30%から40%長くなります。これは概算ではなく、印刷現場で言語切り替えを行うたびに直面する現実です
例として、「高效能精密研磨機」という7文字の中国語を英語にすると「High-Performance Precision Grinding Machine」となります。アルファベットとスペースだけで40文字を超え、視覚的な長さは中国語のほぼ2倍です。DM全体の原稿を英語に置き換えると、完璧に配置されていたレイアウトのあらゆるテキストボックスが溢れ出します
対処法はいくつかあります:
・デザイン段階で余裕を持たせる:中国語版のテキストボックスをギリギリに配置せず、意図的に20〜30%の余裕を残すことで、英語版を収めるスペースを確保します
・英字フォントはワンサイズ小さく:中国語の本文が9〜10ptであれば、英語は8〜8.5ptまで下げても視覚的に違和感はなく、より多くの文字を収められます
・文字数を制御する:AIに翻訳させる際、プロンプトに文字数制限(例:「英語で40単語以内に収めて」)を加える方が、後から無理やりレイアウトを圧縮するより遥かに効率的です
・InDesignのGREPスタイルや段落スタイルを事前に設定し、テキストボックスに「自動縮小」のセーフティネットを持たせておきます
AI翻訳ツール(ChatGPTやDeepLなど)は「短く正確なマーケティングコピー」を作る能力も上がっていますが、こちらから能動的に指示しなければ、正確だがレイアウトに収まらない完璧な翻訳が出てきてしまいます
日本語のレイアウト:中国語とはルールが異なる
初めて日本語DMを作成するデザイナーの多くは、中国語版と同じ感覚で作業し、フォントを日本語用に入れ替えて翻訳を貼って入稿してしまいます。これはほぼ確実にミスに繋がります
日本語レイアウトには、中国語にはない注意すべき慣習があります:
・縦組みと横組みの習慣:日本の印刷物、特に書籍では縦組み(上から下、右から左)が多用されます。DMは通常横組みですが、クライアントが日本企業の場合は、まず相手の好みを先に確認するのが無難です
・約物(パンクチュエーション)の詰め処理:日本語の全角約物(「、」「。」「()」など)の詰め処理は、レイアウトソフト上での挙動が中国語と異なります。IllustratorやInDesignにおいて、日本語のカーニング設定は独立して調整する必要があり、中国語の段落設定をそのまま流用してはいけません
・かなと漢字の視覚的リズム:日本語には平仮名と片仮名が大量に含まれるため、中国語よりも視覚的な密度が低くなります。中国語版の行間や字間のままではスカスカに見えるため、微調整が必要です
・片仮名ブランド名:外来語のブランド名は片仮名表記になります。AIは通常対応できますが、必ず手動で確認してください。特に社名の場合、AIが一般的ではない片仮名表記を採用することがあります
日本語版の校了前には、たとえ約物やブランド名の確認だけでも、日本語に精通した人間によるチェックを通すことを強く推奨します

AI翻訳でできること、できないこと
この境界線を明確にすることで、どこに人的リソースを割くべきかが決まります
AI翻訳が得意なこと:
・展示会のテーマや製品のセールスポイントなど、一般的なマーケティングコピーの翻訳
・人間による校正用の初稿を高速作成(ゼロから翻訳するより遥かに速い)
・類義表現への書き換え(レイアウトに収まらない際、AIに同じ意味で短い文章にするよう指示する)
・複数言語版の同時出力(3言語を比較しながら作成できる)
AI翻訳に任せてはいけないこと:
・技術スペックの専門用語:「表面粗さ Ra 0.8」「送り速度」といった精密加工用語は、AIが一般的な翻訳を当ててしまうことがあり、日本の専門家に見られるとプロ意識を疑われます
・ブランド名や型番:製品名が「EcoGrind Pro 3000」の場合、AIはこれが翻訳不可、かつ途中で改行すべきでない情報であることを理解できません
・法的義務表示:安規認証、成分表示、警告文などは法的な要件があるため、AIが出力した版をそのまま使うことはできません
・トーンと敬語:日本語の敬語の階層は非常に繊細です。AIが出力したものはトーンが不適切な場合があり、B2B展示会ではカジュアルすぎる日本語は印象を下げます
全体として「AIで初稿を作り、人間が補完する」のが現時点で最も時間短縮でき、かつ安全なスキームです。AIには翻訳時間を4時間から1時間に短縮してもらい、人間はその1時間で入稿可能な品質に引き上げることに専念するのが最適です
入稿前の言語バージョンチェックリスト
3言語版のDMを統合し入稿する直前に、私が必ず行っているチェック項目です
レイアウト系:
・各言語バージョンでテキストボックスのオーバーセットがないこと(InDesignの過剰テキスト警告をゼロにする)
・ページサイズ、裁ち落とし(Bleed)設定が全版共通で、言語切り替えによるズレがないこと
・写真、ロゴ、バーコードの上にテキストボックスが重なっていないこと
文字系:
・ブランド名、型番の表記が3版すべてで一致していること
・日本語版の片仮名ブランド名が手動で確認されていること
・技術用語が言語能力または専門知識のある人によってレビューされていること
・電話番号、メール、WebサイトURLが全版で同一であること(コピペミスが発生しやすいポイントです)
フォント系:
・日本語フォントが埋め込まれていること(中文字用フォントで無理やり表示させていないか確認、文字化けは日本語DMで頻発します)
・英字フォントのウェイト(Bold / Regular)が言語切り替えで変わっていないこと
最後の手順:
・3版のPDFを出力後、同じウィンドウで並べて見比べ、視覚的なスタイルが統一されているか確認する
このリストは翻訳の語意ミスを完全に防ぐものではありませんが、再印刷の直接の原因となるレイアウトや技術的な初歩ミスを確実に排除できます

ポイントまとめ
・英文は中国語より30〜40%長いため、デザイン段階でテキストボックスに余裕を持たせること。レイアウト崩壊後に修正するのは非効率です
・AI翻訳は初稿作成には適しているが、技術用語、ブランド名、法的な必須表示は必ず人間が校正すること
・日本語レイアウトの約物間隔や段落設定は中国語用をそのまま流用できない。フォント埋め込みも個別に確認が必要
・「AI初稿+人間による補完」は現在最も省力かつ安全な多言語ワークフローである
・入稿前のチェックは文字内容だけでなく、レイアウトの技術的な項目(オーバーセット、裁ち落とし、フォント)を漏れなく確認すること
さらなるヒント
毎年決まった展示会に出展されている場合、「多言語ブランド用語集」を作成しておく価値があります。製品名、コアとなる技術用語、会社紹介の重要フレーズを中英日対照で固定しておけば、どの展示会でもその用語集を起点に作成できます。AIが文脈をより深く理解できるため、初稿の質が上がり、人間による校正時間も短縮されます
デザイナーの側では、多言語版のマスターページ(Master Page)と段落スタイルを別々に管理することをお勧めします。3言語で同じスタイルを共有せず、言語を切り替える際に、フォント、字間、行間の違いをスタイル切り替えで対応するほうが、毎回手動調整するよりも遥かに安定します
MINDS(麥思印刷)では、多言語DMの校正チェックから印刷まで一貫したサービスを提供しています。もしチームに日本語レイアウトの経験がない場合、あるいは短期間で3版すべての品質を担保して入稿したい場合は、海外展示会印刷物の実績が豊富な専門チームにお任せください
FAQ / よくある質問
- AI翻訳のDM原稿はそのまま入稿していいですか?
- そのままの入稿は推奨しません。AI翻訳は初稿を素早く作るには最適ですが、ブランド名、技術用語、法的表示については、必ず言語能力のある人間がチェックしてください。専門用語の誤りやブランド名の表記ゆれがあると、結局すべて刷り直しになってしまいます
- なぜ英語DMのレイアウトは頻繁に崩れるのですか?
- 英文は対応する中国語に比べて文字数が30〜40%長いためです。中国語でギリギリに調整したテキストボックスは、英語にするとほぼ確実に文字が溢れます。デザイン段階で余裕を持たせると同時に、AIに簡潔な英語表現を出力させるように指示するのが解決策です
- 日本語DMと中国語DMのレイアウトで何が違いますか?
- 主に3点です。約物の詰め処理論理が異なる点、段落の視覚密度が低いため字間・行間の調整が必要な点、そしてブランド名は片仮名表記とし、その一般的な綴りを確認する必要がある点です。日本語フォントは独立して埋め込む必要があり、中国語用フォントで代用してはいけません
- 多言語DM作成で最もミスが起きやすいのはどこですか?
- 電話番号、メールアドレス、Webサイトなどの連絡先情報です。3つのバージョン間でコピペする際に、半角スペースが一つ混入したり数字が抜けたりといった細かい差異が発生しがちです。入稿前には必ず、全版の連絡先情報を文字単位で照合してください
- 中英日3版のDMを同時に入稿する場合、どれくらい余裕を持つべきですか?
- デザイナーに多言語レイアウトの経験があり、翻訳済み原稿が用意されている場合、中国語版完稿から3版の校正完了まで約2〜3営業日が必要です。初めて日本語版を作成する場合は、再配置や専門用語確認のバッファを含め、最低でも5日は確保することをお勧めします
